次世代のまちとの関わり方。”最高に面白い仲間と本気で楽しむ”から生まれた「ソトものツアーズ」とは。

PROJECT INTERVIEW vol.2【ソトものツアーズ】


今、多くのメディアで取り挙げられている「地域の魅力」。今、地域に行くことが、なぜこんなにも注目されているのか。それを読み解くヒントになる企画が一JR社員が企画する「ソトものツアーズ」。そこに惹かれ、魅力ある人が集まる理由は何なのか?「ソトものツアーズ」の秘密を探るべく、主催の磯田幸実さん、荒昌史さん(HITOTOWA INC. )、コアメンバーの橋本健太郎さん(株式会社スキーマ)に話を伺いました。



 - ソトものツアーズとは

様々な分野でプロフェッショナルとして活躍する「ソトもの」たちが、訪れた”まち”のことを本気で考える1泊2日のプログラム。その地域のオススメの場所をめぐり、遊びつくし、楽しんで、「どうしたらもっとこの”まち”が面白くなるか?」をメンバーそれぞれ考えアウトプットを行う。2015年に、埼玉秩父地域で始まったこのプロジェクトをきっかけに、今では秩父郡横瀬町に多くの企業やクリエイターが関わるようになっています。そして活動自体は、徐々に他の地域へとそのフィールドを広げています。


- 「ソトものツアーズ」を企画したきっかけは何ですか?

磯田:  2015年の夏に実家である秩父に思い切って引っ越してみたのが最初のきっかけです。それまでの自分は、新宿にあるオフィスまで徒歩10分ほどの職住近接な都会生活。 周りの人たちからは都会派と思われていたようで、片道2時間もかかる山奥の秩父からの通勤を始めたことで、多くの人が「なんで秩父?」と漠然と興味を持ってくれて。秩父に訪ねてくれるようになりました。 HITOTOWAの荒さんや、まちづクリエイティブの寺井さんという ”まちづくり” に関心の強い仲間で飲んでいたときにもそんな話になったのですが、「普通の観光でもいいけど、せっかく行くなら”まちづくりツアー”にしちゃおうよ」と。そんな軽い飲み会ネタの延長から「ソトものツアーズ」が生まれました(笑)。

秩父市内を15人ほどのメンバーで周り、夜はそれぞれのメンバーが普段取り組んでいる活動をプレゼンし合い、秩父でやったら面白そうなことをディスカッションします。ノリは完全に楽しい飲み会なんですが、その緩さが余白を生んでいて面白い提案が出てくるんですよね。昨年から秩父市のお隣の横瀬町で始まった官民連携事業「よこらぼ」(https://yokolab.jp/)も、このツアーをきっかけに、参加メンバーが町に提案したことで実現したものです。ゆる〜く始めてみた企画なのですが、面白いメンバーの出会いを演出すると化学反応が起こるもので、手応えを感じて楽しくなっちゃったというのが始まりですね。

荒: 僕は「ソトものツアーズ」に関わり始めるかなり前、環境問題に取り組んでいたこともあり、2006〜2009年頃に地方や限界集落を回る旅をしていました。そして、いつか自分が深く関わるローカルを広く浅く探しています。その頃から、秩父の魅力を感じていました。埼玉出身ということもありますが。それで、「”まちづくりツアー”みたいなことを、実際にやってもいいんじゃない?」と飲み会で適当に言ったら、いつの間にか「ソトものツアーズ」の幹事団になっていて(笑)。いそちゃん(磯田さん)に気持ちよく巻き込まれちゃったなーって感じでしたね。

橋本: 僕は2回目のツアーズから参加しているのですが、きっかけは、チームファンタジスタの村上さんとの出会いです。「シンビジ」という、新ビジネスに関わるイノベーターが集まるイベントで登壇していたのが村上さんで、ソトものツアーズや秩父の話をしていて。 僕も秩父出身で、「何か地元で面白いことをしたい!」と思っていて、自分の周囲でも昨年くらいから秩父を面白くする熱が盛り上がり始めていたところだったので、何故JRの人が西武線の秩父エリア?という疑問はさておき、「僕秩父出身なんですけど、絡ませてもらっていいですか!」と、村上さんをイベント終了後のトイレで捕まえて(笑)、声をかけたことがはじまりです。

磯田: 企画した当初は、秩父に縁のないいわゆる「ソトもの」メンバーがほとんどでしたが、回を追うごとにハシケンさん(橋本さん)のような「私も混ぜて!」という地元の面白い人が徐々に増えていきました。「ソトものツアーズ」が面白くなったのは、同時多発的に地域を盛り上げつつあった元々の動きに「ソトもの」が現れたことで、”コミュニティ”が混ざり合っていったからかなと。

橋本:  そうそう、「ソトものツアーズ」だけで終わらない、参加者と地域のつながり も面白くて。参加者にデザイナーがいて、それまでは地域の活動にあまり興味が無さそうだったのに、ソトものツアーズをきっかけに自治体とつながりデザインの仕事を受けたり と、”ツアー後”にも有機的につながる流れができていっていたことは良かったですね。


-「ソトものツアーズ」はリピート率が高いようですが、その魅力は何ですか?

磯田:  メンバー全員で「本気で楽しんでいる」ことでしょうか。「ソトものツアーズ」では、参加者が「本当に楽しい!」と思えることを1泊2日でやります。街歩きをしたり、椎茸やイチゴ狩り、もちろん、めちゃくちゃ飲んだりもします(笑)。ただ、メンバーは楽しみつつもまちづくりのネタや面白いことを常に考えていて、プレゼンやワークショップでは凝縮したアウトプットを真剣に出します。プロとしての意地が垣間見られます。あまりかっちりと型にはめず「ゆるさ」や「余白」を残しておくことが、面白い瞬間を生むには大切な気がします。結果、毎回何かが起こっていて、「あの面白い瞬間を今回も見逃さないぞ!」と思えるから、 また来たくなるんじゃないかな。

橋本: 全体的に、満足度はすごく高いツアーな気がするよね。いそちゃんのメンバーセレクトにより、いつも個性が溢れている人が集まっていて、たまにトリッキーな人も出してくるし (笑)。

荒: ハシケンさんが一番トリッキーだけど(笑)。内容はもちろん、「いそちゃんが選ぶなら、間違いなく面白い人が来る」と思えるのは、ソトものツアーズが盛り上がる理由ですよね。全体的にエッジが効いている人が多いなあと思っていて。秩父&いそちゃんという文脈がなければ出会わなかった人たちに、秩父で出会う。それがとても面白いです。

磯田: 参加するメンバーの組み合わせには実はすごく気を配っています。”この人とこの人を会わせたら面白いことが起きそう”って想像です。そこをちゃんとデザインできれば、中身はイチゴ狩りでも、ぶどう狩りでも、なんでも抜群に面白い企画になっちゃうんですよね。


- 「まちづくり」に関わってみて、考えたことはありますか?

荒:  普段、HITOTOWAでは都市のまちづくりの仕事をやっていて、地方のまちづくりに関わるたびに強く思うのは、良くも悪くも「行くだけで褒められる」「行くだけで感謝される」。 「まだ何もしてないんだけど」と僕なんかは恐縮してしまうのですが。ただ、そういった感覚は、都市部の人々が地方へ向かうことへの動機付けにつながりますよね。町としては交流人口や定住人口を増やさなければいけない!といったなかで特別な施策を考えてしまいがちだけれど、地方へ行きたくなる動機は実はもっとシンプルなのではないかと思います。 それは、都会人にとっての「心のオアシス」になること。

例えば、行くだけで町長が車で迎えてくれたり、はたまた自分の日常である仕事のことを凄いと言ってくれたり、何気ないことでも聞いて感動してくれる。「ソトものツアーズ」は都市部でもかなり活躍している人の参加が多いのですが、とはいえ、そういう都市部ならではの何か満たされない感覚を適度に満たしてくれる場であると思います。そうすると、「そこまでしてくれたら、今度は自分が何か返さなきゃ」と思います。

磯田:  良くも悪くも、東京は「ありすぎる」からこそ、面白いヒトもコトも埋もれてしまう。けれど、ローカルな場所に行ってみると、自分のアイデンティティに気づく事ができると思います。自分が今すでに持っているスキルや、ネットワークがいかに貴重で、役に立てることが沢山あるんだな、ということを再認識できます。普段こんなことを思っていて、こんな仕事をしていて、こんな友達がいて...と紹介するだけで、この地域でこう活かせそうだ、と。そして、またただ「行く」だけで喜ばれるというのは、行きたくなる理由として大きいと思います。


- 「ソトものツアーズ」を始めて、本業の会社での仕事においてなど何か変化はありましたか?

磯田:  仕事そのものよりも、「働き方」「生き方」へのフィードバックが大きいと感じています。以前は、オンとオフををしっかり分けようとしすぎて行き詰まるときもあったりしたんですが。「ソトものツアーズ」は、ある意味の”中間領域”。オフなんだけど仕事につながる部分や、誰かの役に立てる喜びがある。そんな場所があることは、自分にとってオンオフ双方のクッションでもあって、アイデンティティを保てる場所でもある。JR沿線ですらない秩父だからかもしれませんが「JRの磯田さん」ではなくただの「磯田さん」として地域から求められるし、逆に自分の等身大が見える。起業や独立した人は否応にも向き合っている世界だと思いますが、大きい会社、大きい仕事に就くほどその「手触り感」は薄まっていくもので、「ソトものツアーズ」のようなローカルなプロジェクトは、 その等身大の感覚や現場感を保つためにとてもいいことだと思っています。

荒:  いそちゃんを見ていて、楽しそうな「公私混同」をしているなと思っていて。仕事と「ソトものツアーズ」は決してばらばらではないと思うし、プライベートの気づきを仕事にしたり、仕事でのスキルを「ソトものツアーズ」に活かしたりして、うまく循環させていて、いい流れが出来ているなあと思います。


- 「東京」と「地方」は、自分にとってどんな存在ですか?

磯田: 東京から秩父に引っ越して、今、またその中間地点である池袋に住んでいます。それはなんだか、自分にとって「やじろべえ」のような感覚で、都心と地域を行き来しながら自分にとって最適なバランスの良いポイントを住みながら探している気がします。

橋本: 僕は秩父出身ということもあって、5年以内に秩父に戻って住む計画を立てています。今は会社で働きながら、バランスの加減を伺っているところ。例えば「週3秩父、週4東京で過ごす」、そんなデュアルライフも良いかもしれない。良い住み方を模索しながら、今も横瀬にクリエイティブの学校をつくろうという話をしていて、自分にとって良い形で継続できればと思っています。

荒: 今は、自分が住んでいない街のために、とことんまちに向き合うような仕事をしているのですが、いずれは自分が住むまちのために活動をしていきたいと思っています。「ソトものツアーズ」をやってみて気がついたのは、地域ツアーに他の地域の人を連れていくと、そこでこそ気付けるものがあって、地域住民同士が一気に仲良くなる。「同じまちの人で違うまちにいって、改めて自分たちのまちのことを振り返る」ということがこんなにも価値があるんだ、と。今後、都市コミュニティと郊外/地方コミュニティの連携をより展開できたら面白いですね。 

それに、いそちゃんを見ていて思うのは、「ソトものツアーズ」のコミュニティ自体がとても学びになるので、大企業に勤めながらも今の仕事では得られない経験を「ソトものツアーズ」で通じて得ていくことは、自分自身の働き方や生き方を考えていくためにとても糧になると思いますし、それだけではなくて、今の仕事のさらなる成果を残すことにすごくつながると思います。


- 最後に、「ソトものツアーズ」の未来について、教えてください。

磯田: 「ソトものツアーズ」や秩父で起こっている一連の動きから得た気づきを、他の地域にシェアできるようなアウトプットにしたいですね。できれば、本を出したいと思っています。もちろんそこには秩父ならではのものもあるけど、「そのまま他の地域にインストールできるなあ」と思うことがたくさんある。そんな気づきを自分たちなりにパッケージ化して、色々な地域からお呼ばれするチームにしたいなと思っています。 参加する人が「等身大」で楽しめて、それでいて地域に求められる。今後も、私たちらしく「楽しい」を基に活動し続けて、関わる人それぞれが地域や町との素敵な関係を見つけるサポートをしていきたいと思います。


【ソトものツアーズ プロジェクトメンバー】

荒 昌史(Masafumi Ara)※写真右

HITOTOWA INC. 代表取締役。1980年9月25日生まれ。埼玉県川口市、さいたま市南区出身。大学卒業後に住宅デベロッパーに就職。マンションコミュニティづくりや環境共生住宅の企画等を推進。2010年にHITOTOWAを創業。以来、都市部における地域課題を地縁コミュニティによって解決する「ネイバーフッド・デザイン」、サッカー・フットサルを通じた震災復興と防災減災プロジェクト「ソーシャル・フットボール」事業を推進。幼少期からの埼玉西武ライオンズファン。

http://hitotowa.jp/

http://colojapan.asia/


橋本 健太郎(Kentaro Hashimoto)/ 光太郎くん(Kotaro)※写真中央

渋谷・台北に活動拠点をもつクリエイティブディレクター集団 株式会社スキーマ取締役、 兼Performer。1981年12月31日埼玉秩父生まれ。大学時代にグラフィックデザインを専攻し、卒業後、大手広告代理店に営業マンとして入社。その後ディレクター職を経て、 2009年前職で同僚だった志連と共に株式会社スキーマを設立。ディレクター経験を活かしつつ、パフォーマーとして大手企業の新サービス立ち上げなど数多くのプロジェクトに携わる。

http://llschema.com/

https://www.facebook.com/llschema


磯田 幸実(Yukimi Isoda)※写真左

埼玉県秩父市生まれ。2007年にJR東日本に入社し、駅ビルなどの開発プロジェクトに従事。現在は品川新駅周辺の開発プロジェクトを担当。 2015年に実家である秩父市からの長距離通勤を開始したのを機に、街づくりと観光を掛け合わせた「ソトものツアーズ」を立ち上げ、秩父エリアを中心に自治体との共同イベントやワークショップの主催等を行う。2017年より豊島区民となり、東京と秩父を繋ぐ取り組みを思考中。




取材・文 / 村上悠・大久保 真衣

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