100回記念スピンオフ企画 「電動キックボードで目指す、移動の社会課題解決」工藤力さん

「F-MTG(ファンタジスタミーティング)」の100回記念特別企画、「“遊ぶように働き、働くように遊んだ"わたしたちの軌跡」では、メンバーのこれまでをお届けしてきました。今回は、その中でも特にメンバーに大きな影響を与えた出来事を深掘りするスピンオフ企画です!


今回は、過去に友人と組んだバンドの経験から“人に想いが伝わること”が自身の原動力になると気づいたという工藤力(くどう りき)さんが、今まさに強い想いを持って取り組んでいる「電動キックボード普及プロジェクト」について詳しく聞いてみました。

工藤さんのインタビュー記事本編「壁”を乗り越えて、想いを形にし続けるアクション」はこちらからご覧ください!


「価値が伝わっていないなら、自分たちで伝えていこう」

ー電動キックボードのプロジェクトを始めた背景を、改めて教えていただけますか。


スペインでレーサーをしている友人がいるのですが、彼が出場している大会をオンラインで応援した際、後ろの景色に色々な乗り物がビュンビュン走っていたんです。「なんだろう?」と思って友人に聞くと、電動キックボードという乗り物でした。「スペインでは自転車より多く走っているよ」と聞き、面白そうだと思って試しに仲間と買って使ってみたら、かなり便利だったんですよね。でも日本ではあまり普及しておらず、それどころかちゃんとした製品が流通していないため、逮捕される人がいたり事故にあってしまったりと、良くないニュースが散見される印象でした。

環境負荷も小さく、太陽光発電の余剰発電の利活用といった観点からも可能性のあるモビリティなのに、それが排他的に扱われ良いイメージが持たれていないのがもったいないなと思いました。「それなら自分たちからキックボードの良さを発信して、可能性を感じてもらいたい!」と思い、様々な職業の友人たちと一緒に5名でプロジェクトをスタートしたのが始まりです。

ー「じゃあ自分たちでやってしまおう!」と動くことは簡単ではないと思います。


メンバーがみんな、自分たちが作ったモノや作品を誰かに手に取ってもらうことが好きなんですよね。僕と一緒にバンドをやっているメンバーもいるのですが、プロジェクトを進めることはバンドとも似たような部分があります。それはつまり、自分たちの作ったモノを手に取ってもらうことが好きだから、それまでの過程はめちゃめちゃ頑張れる、みたいなところでしょうか。

「こんな価値をこんな人たちに届けたい」ということをしっかりと描いて、実現して、それに対して反応してくれる人がいたらすごい嬉しいと感じる。そんな価値観がみんな共通しているかなと思います。


ープロジェクトの中で、工藤さんはどのような役割なのでしょうか。


プロジェクト全体をまとめ、開発している製品のコンセプトの決定などメンバー全員のベクトルを合わせていく役回りをしています。プロジェクトを進めるときには、俯瞰して全体を見ることのできる存在がすごく大事だなと感じていて、そんな役割を自分ができたらなと。今回のメンバーでいうと半分くらいが猪突猛進のタイプで、自分の勘を軸に想いをどんどん表に出していくタイプ。プロジェクトを推進していくパワーがすごいんですよ。同じようなタイプのメンバーだけではうまく組織が回らないと思っているのでそういうメンバーをうまく導いて、方向がぶれないように軌道修正をする役割を今回は担いたいと思い、適材適所だと思ってやっています。

(電動キックボード試乗会の様子)



電動キックボードで、日々の移動に価値を生み出す

ープロジェクトは現在どんなコンセプトで行っているのですか。


電動キックボードを“日常の移動に価値を生み出すもの”にすることをコンセプトにしています。

正直なところ、最初はコンセプトが曖昧なままプロジェクトが走っていたんです。それじゃダメだよね、ということになり、大切にしたいことをみんなで深掘りし話し合いました。「何がこの製品の価値なんだろう?」と議論し、よくよくみんなの話を聞いていくと、“日常の全てに価値をつけたい、日常の無駄をなくしたい”という想いがあることがわかりました。世の中には移動自体を「無駄」だと思う人も多いと思うんですよね。じゃあ、無駄だと感じるものを極力少なくする事業にするのか、あるいはその時間自体を楽しめるものにするのか。そういった切り口からコンセプトを深掘りして考えていきました。

コロナも追い風となり、テレワークが進んで移動の機会は少なくなっているけれども、全くなくなることはない。むしろ中長距離移動よりも短距離移動が増えていく。そういった今後の需要も踏まえて、コンセプトを決めました。

あと、人間のライフスタイルって絶対に変わっていくと思うんです。一人暮らしから、結婚して二人になって、子どもができて……。ライフスタイルが変わっていくときに、モビリティも変化して行った方が良いよね、ずっと同じ価値の押し付けではなくて、欲しい価値に合わせて形を変えられたらいいよね、ということも自分たちの価値にしています。

(通勤での利用シーン)


ーそのコンセプトには、工藤さん個人の想いも反映されているのでしょうか。


確かに元から「こういう世界になって行ったら良いな」とは思っていたかもしれません。今はより一層社会福祉とか、社会問題を解決する仕事をしていきたいなと、漠然とですが考えています。そのほうが顕在化している痛みは根深くて辛いものですし、解決することができたらものすごく影響力のある取組みになると思います。

その点でいうと、キックボードは実はおじいちゃんおばあちゃんに人気があるんです。「自転車だと漕ぐのがしんどい」という人から、「これちょっと乗ってみたいんだけど……」と言われるので、そういう需要もあるんだなと少し意外でした。また、建築の現場などでも電動キックボードが使われているようで、思っていたよりも「移動が大変だ」と感じている場面は多いのだなと感じています。


「提供したものの価値評価=自分自身に対する評価」

ー会社の仕事もしながら社外のプロジェクトもやられていると、大変なこともあると思います。頑張り続けられる原動力はいったい何なのでしょうか。


「誰かに具体的な価値を提供できること」に達成感を感じるのだと思います。バンドをやっていたときも、お客さんがCDを買ってくれたということが価値が提供された証拠だと感じていて。それを得るためだったら頑張れる、という気持ちがありました。誰に対してどの程度響いているかわからないとつまらないというか、届いていることがわかると嬉しいと感じますね。

あとは会社で働いていると、組織が大きい分、どうしても自分が関わる範囲はセグメントの一部にならざるを得ません。一方でこのプロジェクトでは、一貫して企画から設計・PRまで全部関わることができるので、提供したものを使う人が価値を感じてもらえるなら、それってつまり自分自身に対する評価だよね、とも感じています。

このプロジェクトが始まったのは偶然でしたが、会社以外の場所でも一本自分の関わりたいことの軸があると、すごく楽だなとも感じていますね。会社でしんどいなと思うことが今、全くないんですよね(笑)。このプロジェクトに関することが、常に頭の中をある程度占めているので、仕事で多少手間なことがあっても「帰ったらプロジェクトのこれをやらなきゃ」と考えると、意識を切り替えリフレッシュができるというか。仕事ともプロジェクトとも、それぞれいい距離感で向き合いながら頑張れるようになったかな、と思いますね。


ーなるほど。途中で投げ出すことなく、社外のプロジェクトを仕事と両立されているのはすごいことですね。


このプロジェクトでは、チームファンタジスタで大切にしている考え方である、“社会”と“個人”の想いと、会社で何を実現するかというところをちゃんと照らし合わせて、明確なコンセプトを掲げて動いています。なので、自分たちの想いがぶれない限りやり続けられるのかな、と思っています。その方向性が世間とずれていたら、最終的にプロジェクトがうまくいかないこともあるかもしれませんが、それはそれでしょうがないかなと。自分たちの想いや成し遂げたいことが明確になっているので、たとえ周りから色々な、たとえば多少否定的な意見が聞こえてきたとしても、あまり気になりませんね。


(実際に使用していただいた方の写真)


移動の中で感じる無理・無駄をなくしていきたい

ー今後、このプロジェクトを通じて実現したいことはどんなことでしょうか。


最終的には世の中の「移動弱者」といわれる方々の持っている課題の解決につなげたいと思っています。これまで、一人で移動できないから誰かに乗せてもらわなければならなかったり、自転車が漕げなかったりといった人も、電動キックボードであれば楽に移動することができます。移動をする中で感じうる不安とか、無理・無駄をなくしていきたい。このプロジェクトを通じて、移動に関する不安のない世界を作りたいなと思っています。


ー最後に、工藤さん個人として「こんな世の中にしたい」という想いや、そのために取り組みたいことを教えてください。


いつか取り組みたいと考えているのは、介護施設とそのご家族をつなぐサービスです。自分のおばあちゃんが最近亡くなったのですが、亡くなる前に介護施設に入ってから、一気に元気がなくなったように見えました。

ある程度外との接点があって、家族との距離も近くて、刺激があるような施設に入れれば良いのですが、そんな人々ばかりではないと思います。交流が少ない場所に入れられることでやりたいことが少なくなり、最後は記憶も曖昧になって亡くなっていくという姿を見て、すごくもったいないなあと思ったんですよね。一生懸命生きてきたのに、最期がそういう終わり方だなんて。

そんな現状の解決策として、お医者さんとオンライン診療ができる仕組みや、子ども家族の家にカメラを置いて、パッと見たらおばあちゃんの様子が見え話かけられるような仕組みを作ることができたらなと。オンラインツールを通じて、最期まで家族とつながることのできる環境を作りたいという想いも、いつか叶えたいとしたためています。


工藤 力(Riki Kudo)

チームファンタジスタメンバー。2019年に東日本旅客鉄道(株)入社。建築部門で商業施設の維持管理、小規模開発を担当。入社前からチームファンタジスタの『遊ぶように働き、働くように遊ぶ』の理念に共感し同社に入社。2021年4月より「誰かが行動を起こす際に、障壁になるものを取り除きたい」という思いで仲間とプロジェクトを立ち上げる。現在は、電動キックボードの開発・普及を通じて、近距離移動の自由を目指している。


取材・文:大沼芙実子、菊池萌子

0コメント

  • 1000 / 1000